健康経営に取り組んでいる企業が陥りやすい問題。

この2、3年で健康経営を取り組む企業が増えてきていると思います。
その反面、取り組んでみたものの効果が出なかったと取り組みを断念する企業も増えてきているように思います。

そのような企業様から、私がお聞きしているなかで共通する事柄についてお話をしたいと思います。

その1〜健康経営優良法人取得が目的化するケース〜

健康経営に取り組まれる企業の多くは、経済産業省の認証である「健康経営優良法人」の取得申請を目指していると思います。
この認証の申請数は年々増えており、第一回目の2016年度の申請法人数が397法人であったのに対し、2019年は6095法人と、約15倍になっています。

その認証を取得することで企業に何がメリットがあるかというと、「採用における企業イメージの向上」「金融機関での優遇措置」といった恩恵を得ることができる、と、健康経営を紹介する媒体に書かれています。

その認証を受けるために、社内制度を作ってみたり、ウォーターサーバーを置いてみたり、禁煙制度を作ってみたり。
認証の申請に必要な要件を抑えているものの、実際に恩恵を受けるべき従業員には大きな効果が出ていないケースがあります。

このケースの場合、健康経営優良法人を取得した後、「目的は達成したものの、結局、何が変わったのだろうか」と、取り組み自体に疑問をもたれることが多いです。

その2〜従業員の生産性向上を目的とするケース〜

以前、健康経営に関するセミナーに参加した際に、スピーカーの一人の方が、「健康経営は従業員の健康増進が目的ではありません。健康を手段として、企業の生産性を上げることが目的です。」と、声を大にして主張していました。

このような意図を持って、健康経営に取り組まれる企業は多いと思います。

この生産性向上を目的にする場合、「その企業において生産性をどのように定義するのか」や「生産性を向上を何を指標に図るのか」ということを設定することが一番難しいです。

一つの指標である「プレゼンティーイズム(出勤しているが、十分なパフォーマンスを発揮できていない状態)」を測定することも可能ですが、その数値は主観的なデータであり、例えその数値自体が改善されたとしても、企業の生産性が向上した実感が持てない場合があります。

このように、従業員が健康になったとしても、何らかしらの数値が改善されない限り、生産性向上という目的が達成されません。
そうなると、「健康経営施策はコストパフォーマンスが悪いので、中止しよう」なる場合があります。

その3〜健康経営施策に短期的な成果を求めるケース〜

上記の「従業員の生産性向上を目的のケース」と重なる部分がありますが、健康経営施策に短期的な成果を求める場合があります。
それは、蛍光灯をLEDに替えるかのごとく、です。

しかし残念なことに、健康経営施策というのは、人に対するアプローチなので、即効性はありません。
なぜならば、人が不調になるのも、長期間にわたって緩やかに不調になっていくものですので、改善するのも同様に緩やかに改善していくことが多いです。

そう考えると、健康経営施策の成果は、半年でも短く、少なくても一年、数年スパンで出てくると思っても良いと思います。

実際に、ある調査レポートによると、”健康経営の実施が 2 年のラグを 伴って ROA や ROS を高める可能性が示された。”と報告されています。

このように、健康施策自体は長期的に考えるべきであり、短期的な成果を求めるべきではないと思います。
しかし、このようなケースでは、2〜3ヵ月で変化がなければ、「次、いってみよう」と、健康経営と違う施策に取り組まれる場合があります。

健康経営の目的を再考しませんか?

今までお話ししてきた3つのケースは全て、「従業員の健康増進」以外の目的のために健康経営に取り組んでいます。
そのため、その目的が達成されなかった場合、違う施策を取り組まざるおえなくなるのではないでしょうか。

そもそも、健康経営を推進している経産省の説明にも、”企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がることが期待される。”と書かれています。

つまり、「従業員の生産性向上が目的」とは書かれていないのです。

このことからも、すでに健康経営に取り組まれていて、「従業員の健康増進」以外を主たる目的とされている場合は、目的の再考をお勧めします。

目的はシンプルに「従業員の健康増進」にしてみてはいかがでしょうか。

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